2019年4月13日の記事
【魚類妄想生態学】那珂川に生息する戻りヤマメについてで妄察したとおり、那珂川のヤマメ・サクラマスと呼ばれるものの中には、実に多様な生活史型が存在する。
少し、前回のおさらいを。
ヤマメとシラメ、、、そして戻りヤマメ
ヤマメ...ずっと那珂川の淡水域に留まる河川残留型。幼少期は空気読めないほど自己主張が激しかったやつ。周りのことはあまり気にならないタイプ。ただ、現状に満足しているからあまり挑戦はしない。実は臆病なやつ、いや無難なタイプともいえる。将来、後述のシラメにならない無類の淡水好きのヤマメである。
シラメ...川にいるからヤマメなんだけれども、幼少期は周りのヤマメよりも自己主張が苦手で、控えめで、餌が少ないときは周りに譲っちゃうような、そんな優しい心を持った子で...あるとき何かに目覚めて、周りに遠慮しないで生きるって決め、ガンガン餌を食ったらギンケして...。
流れに逆らってばかりでなく、流れに身を任せることの大切さ、いや楽することの大切さを知って...1歳になったときには同級生のヤマメよりも圧倒的に大きくなって...。今までいた川の上流よりも下流に少しずつ興味が湧きだし、好奇心から動き出した。大海原へ行くことを考え出した、そんなやつ。
そして、海へ降ることを実現できるやつもいる一方で、やっぱり那珂川に留まり生きることを選択できる柔軟さをもつ。
そう、前者がサクラマス。そして、後者がその名も「戻りヤマメ」である。
どちらもそれぞれ違った強さを持つ。
ここまでが前回の戻りヤマメの妄想生態学的知見。
今回は、シラメで海へ降ったサクラマスについて妄察したい。
サクラマスの妄想生態学的知見
那珂川に生息するサクラマス。
とにかく、釣れない。だからこそ、みんな釣りたいわけだ。
大きいもので70㎝オーバー、小型のもので30㎝前半の釣果がある。
釣り方はルアー、餌、フライ...様々。遡上したてのサクラマスは、海での食事習慣が抜けなくて、魚だけでなくエビなんかも食べる。釣り人の中にはオキアミをまいてサクラマスを寄せ、オキアミで釣る、なんてやり方を展開している人もいるのだとか...。
そうそう、サクラマスは川へ入ってからは餌を食べないと言われていて、確かに那珂川のサクラマスでも80%ぐらいは空胃だ。他県の事例でも結果は似たようなもの。ただ、ずっと食べることをしてきた魚が “何も食べない” へと行動を変化させるのは容易なことではないと思う。食べたいという気持ち、衝動は薄れても、食べるという動作自体は体に刷り込まれていて消えないから、だから釣れるのだ。
那珂川のサクラマスは「幻」...。というと「いない」に近い表現になるので、幻ではないけれど、滅多に出会うことができないのは確か。一度の人生でどれだけ出会えるのかわからない、そんなサクラマスだからこそ、釣り人を虜にするともいえる。そして、釣るまでの工程、ファイト、出会ったときの興奮、美しさ...すべてが魅力的。記憶に残るサクラマスと出会いたい。その一心で限られた時間をサクラマス釣りにかける。3時起きのエクストリーム出勤。人を狂わすサクラマス。
さてさて、少し脱線したけれど妄想生態へ。
2つの生活史
那珂川のサクラマスには、大きく別けて2つの生活史が存在する。
まず、海洋生活期間が1年ほどの一般的なサクラマス...ここでは「長期降海型サクラマス」とする。
そして、海洋生活期間が短いサクラマス...「短期降海型サクラマス」だ。
ここまでを図で簡単に示すとこんな感じかな。
もっと細かく別ければきりがないけれど、秋に海から遡上してくるサクラマスもいる。那珂川では秋にサケの掛釣りが行われているが、このときに下流域でギンケした遡上間もないサクラマスが掛かっている。
また、生まれてすぐに海に降るサクラマスもいる。これは耳石の微量元素組成の分析結果から分かっているものだ。
もちろん、これらに当てはまらない個体もいるだろう。
実に面白い。
長期降海型サクラマス
東北地方や北陸、北海道などでもみられる一般的なサクラマス。
基本的には春に海へ降って、夏をオホーツクとか涼しいところで過ごし、冬に本土沿岸の海に移動してきて、春に遡上する。まるまる1年間を海で過ごすわけだ。これが長期降海型サクラマス。
関東地方にもこの長期降海型サクラマスは生息している。
そう、那珂川にもいる。
産卵された秋から1年半後の春(1歳半)に全長20㎝ほどの大きさで川を降り、1年後の春(3~6月)に那珂川を遡上回帰する。
海に降る大きさは北海道や東北地方などのサクラマスより大きいのが特徴。
そして、回帰時の大きさは全長46㎝と小ぶりなものから、60㎝以上の大型まで存在する。60㎝以上ともなれば東北地方の有名河川に引けを取らない。
このあと妄察する短期降海型サクラマスよりも、極めて数が少ない。それだけ釣るのが難しく、憧れの存在。釣り人が求めるのは、まさにこのサクラマス。
昔はこの大型のサクラマスが沢山いたという話を聞く。しかし、詳細は不明である。なぜならば記録がない。
多摩川でもサクラマスが漁師の手で漁獲され、売られていた時代。この那珂川でもそれなりの漁獲があったという。ぜひともその時代に遡って、サクラマスの大きさを確認したいものだ。
下の図に長期降海型サクラマスの生活史の概要を示す。
ちょうど3歳になる秋に生まれた川へ戻って産卵する。
短期降海型サクラマス
那珂川に生息するサクラマスとして、最も特徴的なのが、短期降海型サクラマスだ。いやいや、代表的、一般的という方が適当かもしれない。
なぜなら那珂川で釣れるサクラマスとしては、長期降海型サクラマスよりこちらのほうが断然多いためである。長期降海型サクラマスが1だとすれば短期降海型サクラマスは5ぐらいだろうか。もちろん、戻りヤマメよりは遥かに少ないと思う、なかなか釣れないのだから。
短期降海型サクラマスは、産卵された晩秋から約1年後の冬(1歳)、全長20㎝ほどの大きさに成長しギンケしてシラメとなって降海する。その後、約半年の短い期間を海で過ごし、その春に那珂川へ遡上回帰する。つまり、回帰時の年齢はまだ1歳...驚きだ。
より詳しくいうと、降海時期は11~3月ごろまでで、特に12~1月が多い。この時、河川水温は10℃以下に低下する一方、海水温は10℃以上となる。温度差の少ない時期により暖かい海へ移動することで移動による体へのダメージも抑えられるのだろうし、何より餌にもありつける。そして那珂川へ遡上回帰する時期は5~7月であり、海水温が15~20℃、河川水温が18~22℃の条件下となる。長期降海型サクラマスよりも遡上時期は1カ月ほど遅いことになる(4月の河川・海水温はともに10~11℃ほど)。
海洋生活期間は...わずか2.5~7.5カ月ほど。平均すると5カ月、約半年というわけだ。そして、回帰時の大きさは全長30㎝~40㎝台と小型なのも特徴。中には50㎝を超す個体も確認されている。
また、海に降る大きさはやはり北海道や東北地方などのサクラマスより大きい。これは長期降海型サクラマスと同様である。ちなみに、降海時の大きさは、11~3月の間であまり変わらない。ギンケのタイミングは季節のほかに体のサイズも関係しているようだ。
これが那珂川の短期降海型サクラマスの生活史になるわけであるが、実はサツキマスに非常にそっくりな生活史といえる。
降海時期、降海時の大きさ、海洋生活期間、遡上時の大きさ、遡上時期...非常に似ている。
そういえば、短期降海型サクラマスは海に降ったあとはどのように回遊するのだろうか。
サツキマスは海洋生活期間の短さからあまりサクラマスのような長距離の回遊は行わないのではないかと言われている。
おそらく、短期降海型サクラマスもサツキマス同様だろう。
下に短期降海型サクラマスの海での回遊ルートを示した。
図の通り、冬に海へ降ったシラメ(冬シラメ)は黒潮の影響を受けるより暖かな海、つまり過ごしやすく餌のある場所を求めて千葉県方向へ南下する。その後、黒潮の影響域の北上とともに沿岸を散歩しながら北上し、那珂川へ回帰する。
そして、初春に海へ降ったシラメ(初春シラメ)はすでに海が暖かなので短期間だけ黒潮の影響を避けるように索餌北上して初夏までには那珂川へと回帰する。
海へ降る時期が早いほど南下し、遅いほど南下せずに北上する。もちろん、早く降海したけれども成長が思わしくなく、北上して初夏近くまで海で過ごさなければならない場合もあるだろう。このように、黒潮の影響の出方、つまり水温や餌条件などにより短期降海型サクラマスの回遊パターンは柔軟に変化する。
長期降海型サクラマスに比べれば、大きさも小さく、釣りの対象としては少し劣るのかもしれない。
しかし、海での成長率は長期降海型サクラマスに引けを取らない。ましてやより高成長のことだってある。
関東のサクラマス。そう短期降海型サクラマス。
より暖かな海のあるこの場所で、効率よく成長し、サクラマス並みに産卵量を確保する。その順応性の高さ。
短期降海型サクラマスがいつまでもいる那珂川を目指して。
今日も川に立ち。一歩でも彼らに近づけるようにイメージを膨らませる。
あることないこと妄想し...考察する。
そう、妄察する。
・・・。
まだまだ書きたいことはあるけれど、この辺にしよう。
那珂川のサクラマス、産卵のことや、他県の短期降海型サクラマスのことなど、ちょっとずつ妄察していければと思う。
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