何の話かといいますと、鮎の産卵のことです。
鮎は海と川を行き来する両側回遊性という生活史を持つ魚です。
まさに那珂川の天然鮎です。
でも日本には数十万年前だかに陸封されて海に行けない鮎もいます。
琵琶湖の鮎です。
陸封されて久しいゆえに、那珂川の鮎とは遺伝的にも違った特徴があるようです。
そして、川に遡上する鮎と湖にとどまって一生を湖で過ごす鮎もいるそうです。
詳細にはもっと4つくらいの生活史があるようですが、とりわけ川の鮎とは違うのが湖で一生を過ごす鮎。
しかも、湖の波打ち際で産卵するといいます。
川の鮎の場合、流れのある瀬が産卵場ですので、とても興味深い産卵生態を琵琶湖の鮎は持っているといえると思います。
この湖畔で産卵するという特徴が湖という環境に鮎がおかれたために獲得したものなのか、それとも陸封以前に有していたのかということを、考えずにはいられない状況に、今回の那珂川での産卵観察で落ち至いりました。
11月中旬の那珂川下流域のようすです。
今年はかつてないほどの遡上があった那珂川。
ただ、気象、川の条件が鮎にとってたいへんに厳しい年ともなりました。
それはみなさんご存じのとおりです。
数がとりわけ多いがために、成長は悪く、鮎は小型で産卵を迎えることとなりました。
川の環境には収容力というものがあり、鮎の棲める環境には限りがあります。
鮎がたくさんいれば鮎は小さく、鮎が少なければ大きくなるとうのが特徴です。
こんなにも川のキャパを直に感じられる魚はいないと思います。
色々ありましたが、今年も産卵までなんとか生き延びた鮎たちがたくさん下流に集まっており、それは僕の想像をはるかにこえるものでした。
「一体どこにいたんだろう。」というか「今まで何していたんだろう(あまりの小ささに)」…
という疑問が湧き上がると同時に、「やはりいたんだ、釣れないだけで。」
という納得するにいたりました。
瀬に産み付けられた卵。
力尽きた小さな鮎。
腹びれは赤くそまり…
鰓蓋のスリーパックは淡彩階層。
見入ってしまいます。
渇水で大繁茂した藻に絡む鮎。
死してふわふわとなった鮎。
鮎の亡骸が川にかえってゆく…
カナダモ類と死した鮎。まさに2023年の那珂川を象徴するような光景。
これが現状なのです。
息があり、精子が流失する鮎。
鳥なのか動物なのか、捕食された鮎。
どの鮎たちも
それぞれに生きた、まぎれもない事実がそこにはあり、
想像すればそれはとても逞しく、
今どんな姿であろうとも
それぞれに鮮やかで、
極めて
美しい。
那珂川の鮎は小さい。
でも僕らのがもっと小さいです。
よどみには産卵を終えた鮎の亡骸が。
今年も流れのある瀬の中で産卵する鮎のすがたをうつしました。
大小さまざまな鮎がひしめきあっています。
岸に近い浅瀬は石が詰まりぎみで河床は硬め。
流れの走った場所へ行けば砂利がふっくらとし、多数の産卵床がある状況でした。
この体の大きさでブルブルと体を震わせて泳ぐ。
そのエネルギーはすごい。
こんな小さな雌の姿もあります。
カメラの手前で産卵。
ちょうど3年前のこの日、この場所でみた鮎たちは産卵も終盤とあってかやや小さめでした。
しっかりと秋は訪れていて水温も低く、大きな個体はすでに産卵を終えていたものと思います。
しかし今年はまだ水がややぬるく、産卵時期もやや遅れているのではないかといった中、小型が目立つということは…
まさに数が多かった証拠。
来年を担う2023年の親鮎はまぎれもないこの子たちなのだと、実感。
数が多いだけに、個々の経験は例年以上に多様なはず。
それは現状の特殊な那珂川環境を生き抜くためのすべてがつまった命たちです。
そして、この日最もワクワクしたのが、この川岸での産卵。
瀬からの流れ込みの脇といいますか…
ゆらんゆらんと波が打ち寄せる岸際。
まさに、湖の…そう、湖畔のような。
流れはほとんどなく、あるとすればごくわずか。
その代わり揺れる波。
激浅のそんな川岸のゆらゆら帯のこんな石具合の場所に。
パッチ状?に産卵。
ゆらゆら帯なので波の波長で微妙に掘れた谷と山が形成されている…
その中の堀のところのわずかな小砂利部に。
大興奮。
波の横揺れがあるこのあたりで頻繁にパシャパシャと産卵。
条件の良い場所はこんなにもきれいにほられています。流れ込みの脇ということもあって、石は瀬の浅場よりも柔らかいのではないかと思いました。
激浅でしたがなんとか撮影できました。
大気中からだとこんな感じに産卵しています。
水中での密。
瀬の鮎たちよりずいぶんと小さな鮎たちです。
口をあけて並んでいる3尾。
産卵がおこるとあちこちから集まってきます。
砂埃が舞いますが、すぐに鮎たちは戻ってきます。
時間をかけてみていると、同じ鮎がなんども現れます。
パッチ状の限られた産卵床ですから、縄張り的なものをもっているようにも感じました。
流れはほとんどなくてもゆらゆらしますので、酸素供給はあるのかもしれません。それに川岸ですから写真で見てのとおり水泡が立っていますから、空気中からも酸素供給があるのでしょう。
そして産卵前、雌はしきりに川底をつんつん調べているようなしぐさをします。
良い場所を感じているのかな?
亡骸を調べ大まかな産卵親魚のサイズを把握することに。
おおよそ9~18cmほどのバリエーション。
13cmくらいが多そうな感じですが、いや~小さいなという印象でした。
9cmなんてサイズはほんとうに春の遡上期の鮎のサイズ。
体が小さい、流れのはやい所での産卵は向かない、数が多い、産卵適地が限定される、瀬の適地は満員御礼、あふれた小さな鮎たち。
そんな鮎たちが選んだゆらゆら揺れる河畔の浅場。
それはまるで湖畔のようで。
仕方なくなのか、それとも積極的なのかはわからないけれど、
そこには水しぶきを上げ、ぶるぶると体を震わせながら産卵する、まぎれもない那珂川の鮎たちの姿がありました。
そして僕は、那珂川の河畔に琵琶湖を思い浮かべ、
遠くに息づく彼らの命の成り立ちに想いをめぐらせました。
海と川を行き来する鮎。
柔軟でたくましいその姿に今年も僕は頭がパンパンに腫れ上がるほどに興奮して…
その夜は寝れず、ずっと頭の中を鮎たちが泳ぎ続けました。
ほんとうの話です。
我に返りますが、
湖畔で産卵という性質は琵琶湖に陸封される以前から、両側回遊性の鮎がすでに有していたもの。
・・・・とうのが僕の妄想生態。
ゆらゆら帯での産卵生態、より詳細に調べたいな~って、ふ化率とかどうなのだろうか?
またしても研究熱が…。
琵琶湖では早生まれの鮎や成長の早い鮎が川へ行き、そうでない鮎が湖にとどまるという話…。
ここ那珂川は湖ではないけれど、早生まれの鮎や成長の早い鮎が上流へゆき、結果上流はキャパはいっぱいで、遅生まれの個体や成長が思わしくなかった小さな小さな鮎の一部は遡上することなく下流にとどまり、産卵を迎えたのだろう。そのような小型の鮎が塩分域なのか淡水域なのか、どのような環境にいたのか、とても興味深い…。
とにかく鮎が多かったというのが2023年那珂川ではないでしょうか。
ここ数年の傾向から見ても、そのような下流どまりな鮎が多いような気がします…。
つまりは下流は上流の鮎が下ってこなければ釣れないし、だから釣れる時期は晩期化する…。
より成長が悪い年になればなるほど、下流は釣れないという現象。
石が小さくても、青ノロがびっしりでも、下流の岸際が黒くひかっているのは、そんな鮎たちがいるから。
近年の盛期の河川状況ともマッチするように思います。
なんとなく腑に落ちるし、想像を膨らませることができた2023の産卵観察。
また近々行きたいと思います。
この記事へのコメントはありません。