AYU

【魚類妄想生態学】夏遡上鮎のライフヒストリー+

おさめたい景色はいつになってもおさまらず…かれこれ5年は過ぎた。
目に入るたびに幾度も思っては行動に移せないままでいる。
初動は気持ちが大切で、これはずべてのことに通じるなと思う。

あっという間に秋の色どりは弱まり、今度は足元のさりげない小さな秋が始まった…
かと思ったらあっけなく消えてなくなった。

今年の秋はやけに短いように感じる。

生活の中には色々な課題があってどれも僕一人では解決できないことばかりだけれど、でも僕でなければならないこともあって…
そういうことにきちんと気づいて、行動に移せるようになりたいと今更ながら思う。
どうしても周りに意識を奪われがちだけれど、やっぱりベクトルは自分自身に向けなきゃいけない。
簡単なことではないのだけれども。

・・・

・・

そんなこんなで鮎のはなし。

これまでの解析結果は以下のとおり。
もう詳しく説明する気力もないので下記を参照いただきたいところ。

【魚類妄想生態学】那珂川小鮎ライフヒストリー

11月中旬(2023年小鮎産卵群)の小さな鮎たちは1月中に産み落とされた個体で随分と遅生まれ個体だった。
でも11月というごく一般的な産卵時期に自分たちは産卵に交じっていたわけだ。
必ずしも遅生まれは産卵が遅れるわけでなく、夏に遡上し小さいままで産卵盛期に繁殖に加わったりすることがリアルに見えてきた。
人間都合でいう早生まれは大事という考え方からすれば、小型遅産卵スパイラル群は小型早産卵早生まれへも柔軟に変化するということだろう。翌年の産卵には20cmを越える魚体で産卵しているかもかもしれない。

そして6月下旬海どれ稚鮎も1月中に産み落とされていた遅生まれ個体で全長55mmで捕獲時はまだ海にいた。
まさにこういった遅生まれ個体は遅生まれなんだからそりゃ海で成長する期間がずれ込み遡上時期が遅れる夏遡上鮎になるんだわね…といった考察。

【魚類妄想生態学】夏遡上鮎のライフヒストリー

がしかし、2025年7月末に釣った夏遡上鮎75mmは産卵時期は11月上旬生まれ(詳細は上の記事のとおり)。
10月~11月中だからごく一般的な産卵時期に産み落とされた個体だったわけで…海にいた期間も上記個体の約倍の7カ月間ほどと考えられたからビツクリ。

鮎の琉球鮎化のようなことが西日本では観測されているとのことだけれど、海が温かすぎて海洋生活を早期に切り上げて未熟な状態しかも小型で遡上してきちゃうってことらしく…ただ那珂川の鮎たちでは海にいる期間が長くなって夏にも遡上するっていう、どうもそういうことではなさそうな感じ(早期遡上鮎たちではどうかはわからないが)。

当然バリエーションに富むよねって話でおわりにしてもいいところなんだけど、もう少しみたいなと、ちょこちょこ集めていた。
結局のところ、作業していても頭のなかに彼らのことがあって、やっぱりそれをやらないと木工も進まないわけで…
優先順位は必然的に高くなる…。

小さな鮎たち。
サイズは表のとおりで8月上旬の鮎でも10㎝をきる個体もいる。
今年は夏中も時間を見つけては水中のようすを覗きに行き、遡上を観察していた。

カワシオグサ のどめど いっぱい

詳細は上記のとおりだが、夏遡上鮎はやはり存在していて、極めて小さな群れでかたまって遡上している様子がわかった。
春の遡上盛期のような帯をなす、あるいは大きなかたまりの群れとは全く異なる。

網は解禁していても規定の目合では小鮎はすり抜けてしまうから、当然漁獲方法は釣りに限られる。
ま~捕れない。

数は限られるが耳石解析の結果は以下のとおり。

意外にも夏遡上鮎の大部分は10月下旬~11月下旬に産み落とされた個体で、ごく一般的な産卵盛期の群だった…。
2025年7月末に釣った夏遡上鮎75mmと同じ傾向。

もう少しみてみると…

産卵日が遅れるほど遡上日も遅くなる傾向がありそう。
海にいる期間がずれ込むんだからそりゃそうだよな…?

成長は意外にも遅生まれの方が成長がいいような感じ…。
イメージとはちょっと違ったが、遅生まれの方が約1カ月の差を取り返すようにぐんぐんと成長するような状況が海に用意されているのだろうか?
海洋生活期間が3~5カ月間が一般的だと思っていたから、6~7カ月間とかその倍近くを海で過ごすってのは驚き。
だからが逆に海に長くいてもだらだらと少しずつしか成長できないってことも考えられる。
早期に降った鮎たちは既に健全に餌にありつき順調な状態なのだろうから、そこへ遅れてやってきた仔鮎たちはなんとも餌をとりずらい状況となろうことは想像できる。

海水温と河川水温のデータをのせてみた。
河川水温は最近のデータが公表されていないのでわからないが、海水温は一年を通して高くなっていて、とりわけ1~4月ごろで高くなっている。まさに孵化後の仔鮎の海洋生活期間に一致するから、遡上の早遅や夏遡上期間などに大きな変化をもたらしていることが予想できる。
鮎が海から川へ遡上を開始する水温10℃のラインはかつてはちょうど3月ごろに海と川が交わっている。
最近は海は常に暖かく、川が10℃を越え海との温度差が小さくなったタイミングが遡上時期となりそう。
3月よりも前倒しになるのだろうか…。

考えはなかなかまとまらないが、小型遅産卵群とか小型早産卵早生まれ群とか大型早期産卵早生まれ群とか…色々なパタンがまじりあって存在しているからこその一万回遡上という長い歴史があるのであって、各群からそれぞれ違った群に変化し(小型遅産卵群→小型早産卵早生まれ群などなど…)、それを柔軟に乗り越え次世代につなげていくことが、きっと鮎の強みなんだろうと思う。
つまりはどの群もどのようなパタンにも適応できるだけの潜在能力が備わっている。

だから鮎の存続って考えでいけば、そのバリエーションの豊かさこそが二万回遡上、三万回遡上に繋がっていく。もちろん僕たちが邪魔しなければだ。
釣れる鮎(資源)って意味では早期遡上鮎に注目が集まりがちだし自分自身もそこに大いに注目してきたけど、種の存続って部分とは大きく見方が異なるし、長期的に鮎を見ていくなら様々な鮎に目を向けなければいけないと、改めて気づかされた。

今後もう少し数をそろえて解析したいところ。
ライフワークとして毎年集めて解析していきたいなとは思う。

それと今回解析した夏遡上鮎の中に2023年11月中旬生まれの個体が含まれていた。
まさにあの時の、ゆらゆら帯で激しく産卵していた小鮎たち(詳細は下記記事)の子孫かもしれない。

【妄想生態】それは陸封以前からもちえたもの

だとすれば、1月上~中旬に産み落とされた鮎は翌秋11月中旬に全長10㎝以下で産卵し、その産み落とされた個体は6~7カ月間の海洋生活を経て6~8月ごろに河川に遡上してきた。
そういうことになる。
複数年追っていると、なんとなく世代が繋がってきて、とてもおもしろい。
なんだか感動的だし、ワクワクする。
とにかく一匹一匹の一生がよりリアルになる。

やっぱり続けよう。
それともう少し遡上の傾向を観察できるように川に足を向けたい。

今年の小鮎の産卵もとてもこたえた。
ほんとガツンときた。

ゆらゆらと生死まじりあう

こういう那珂川での鮎の動態がこれまでのスタンダードなのか、今まさにといったトレンドなのか。
その辺はよくわからない。

でも確実に今までの自分では想像もしなかったところに出くわしているし、この目でみることができている。
こういう時間はやはり鮎との今後の関りを考えるうえでも、そして製作にしても、ウェイトを置くべき部分だと実感している。

最近の鮎釣り事情を書き記しておくとすれば、気候変動の影響なのか年々中流域の釣れはじめ時期が晩期化しているように感じる。
今年は全く釣れるタイミングがなかった。
もちろんスポット的に釣れた場所はあったが、本当に限られた場所のみ。
おそらく中流河川環境の単純化があって、魚がつくポイントが局所化しているのだろう。
上流は空間が狭いが魚がつく局所的な場所が比較的近くに点在しているのだと思う。
もちろん石の存在具合は中下流よりずいぶんといい。

台風19号のあとから中流環境の単純化(下流化)が進行したように感じている。
下流化というのは小石底が極端に多くなって、瀬にあった頭大より大きな石組が極端に減った。
気候変動による水温上昇、それによる生息場所の上流化はあるだろうが、どうも空間の乏しさ(中流環境の下流化)の影響もずいぶん大きいと感じずにはいられない。
とりわけ19号で大きく川底がえぐられたことは想像がつくけれど、あれだけの水がでれば大きな石も供給されるはず。
ただただ石が留まらないんじゃなくて、かっぱかれた小さな土砂が中流に流れてきては被さってしまっているのではという印象をうける。それは河川工事もしかり。
そこへ海水温上昇、遡上早期化、河川水温上昇、鵜のテリトリーが加わる。
どれをとっても鮎の主要な生息場所を上流へと変化させていく要因になりうる。

これが数年あるいは十年単位の短期的な気候変動の影響によるものなのか、はたまた今後のトレンドなのか。
おそらくはあがりさがりを経ながら、徐々に進行していくのだろう。
こういった現象はただただ鮎のことだけではなくて、熊とか樹木とか草とかあらゆる分野で変化トレンドのようだ。

上流はより魚との距離が近く、とうぜん漁獲しやすい特性がある。
資源としてとらえれば、その狭小空間にたくさん鮎が遡上してきてひしめき合っているのであるとすれば、どうだろう。
「遅くまで鮎が降らず晩期の数釣りが楽しめる」という一見嬉しい捉え方の裏に、実は長期にわたり高漁獲圧という鮎にとってはたいへんマイナスの負荷がかかっている可能性だってある。どこどこ限定商品ってものがあるが、そういったものが一か所でまとまって買えるってのと同じ。
川にいる期間が長くなるということは産卵時期も遅くなるわけだが、より遅くまで上流にとどまったツケとしてより下流に移動する労力や時間がかかるため、適地があればあまり降らずに産卵してしまう。中流域に産卵適地を造成するという考え方も少々危険とも思える。つまりは以前より海から離れた場所で産卵してしまう、なんてことも懸念され、これは孵化から数日で海に受動的にたどり着かないといけない仔魚にとっては死に直結する問題。

当然そうなると生息場所の上流化がおこっているのであれば、上流域での漁獲規制などのルールを設けることも必要となってくる。
上流域個体の降下晩期化が明確化している状況下では禁漁期の前倒しも翌年個体の担保という意味でたいへん有効と思う。当然これは上流域の現状に足並み揃えて全域で規制することが望ましい。

いろいろとごちゃごちゃ書いたけれど、僕らは今ある現状や現象を素直にとらえる、観察する、いや、ただただみるだけではなく、その先を想像して何らかの行動につなげていかなきゃいけない。

やはり僕にとって耳石解析はその一つのツールだと思う。

そこで感じたことをここに書き記すこと。
それが今の自分にできることだと、なかば図々しく思う。


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