椿から彫った耳石。
鮎ノ神オトリスの大切なパーツ。

耳石の日輪の説明によく登場させるのが木の年輪であって、今回は実体化してみた。
鮎。

海洋生活の末期、海から川へと生息の場をうつす、身体的にも生理的にもリスキーな時期。
海での生活は鮎にとってそんなに富んだものではない。
環境の激的変化は2度。
今ここに泳ぐ鮎のこれまでの生活は僕らの想像できる範疇を越えている。

宇宙的な広がりをもつその1個体の生活史。
命の星。
今夏は経年的に更新される暑さにより、鮎は8月に入りすっかりと姿を消してしまった。
ただ、夏遡上の鮎は今季も変わらず存在していて、どこか頼もしい。
2019年に茨城県下流域で観測した7月末の遡上鮎。
そこから地道に夏遡上鮎を集めて、ほんの少しだけ数がまとまったので解析することとした。
今回は2025年7月末に釣った夏遡上鮎。
75mm。
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耳石の中心から日輪本数を計数すると…

253本
孵化時期は11月中旬、河川水温から推定される産卵時期は11月上旬。
前回解析した産卵場で産卵に加わっていた10㎝に満たない小型の鮎は1月上旬に産み落とされていたものだったが、今回の夏遡上鮎とはどうもその生活史は異なるようだ。
その差は2カ月ほど。
「産卵が遅れたため、夏に遅れて遡上してきた」ということではなさそう。
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「遅生まれの夏遡上鮎は小型で秋に産卵に加わる」
そんな単純なシナリオではないようだ。
想像しているよりもバリエーションに富むということか・・・・
・・・
・・
・
次に、海から川へと遡上を始めた時期を推定してみた。
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耳石縁辺には激的変化点。
ここを海から川へと入った時期と仮定すると…
河川遡上時期は5月上旬(海洋生活期間は5カ月半ほど)となる。
比較的遅い遡上時期ではあるが、果たしてこの7月末まで河川下流域のどこでどう生活していたのか。
全長75mmという小サイズであまり成長せずに川にいたとすると、なかなかその背景が浮かび上がってこない。
・・・
よくみるとその外側にもうっすらと明暗分かれる変化点がある。
そこを海から川へと遡上した時期と仮定すると…
河川遡上時期は6月中旬(海洋生活期間は7カ月ほど)となる。
体サイズから考えればこちらの方がしっくりくる。
しかし海洋生活7カ月間というのは非常に長い。
秋の小型産卵鮎で3カ月半ほどだったからほぼ2倍の長さ。
日間成長率をみてみると秋の小型産卵鮎で0.33 mm/日で、夏遡上鮎が0.26 mm/日。
本来なら川の期間が含まれているから比べられないのだけれど…
単純に考えれば海での成長の悪さが遡上の遅れ、つまり夏遡上につながったということになろう。
僕の現時点での考えはそのようになる。
おそらく最初の大きな耳石輪紋の変化点は環境水温の変化によるものだろう。
しかも5℃以上、あるいは10℃以上の温度変化を数日間経験したものと推察される。
だとすれば、5月上旬の海と川の温度変化が大きくなり始める時期にいったん海から川へと遡上しようとトライした証か…。
あるいは工業系排水なのか何なのか、ほんとうに想像でしかないが何らかの激的温度変化をうける環境へ迷入したのかもしれない。
「あ~そういう鮎もいるよね。」
確かにそうだが、それでは僕はどこか納得がいかないし、数年かけてとりためた小さな夏遡上鮎をもう少し解析してみたいと思う。

わたしの生活史。
個体がもつ宇宙。
命の星。
その輝きの点と点。
結びつく、そのときを信じて。
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