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鬼怒鱒~鬼怒川の八頭身~【魚類妄想生態学】

鬼怒川の固有鱒

鬼怒川。
那珂川とともに北関東を代表する鱒の川。

とりわけ、那珂川はサクラマスの川として知られていますが、果たして鬼怒川はどうでしょうか。
おそらく、鬼怒川としてイメージされるのは、本流のヤマメではないでしょうか。

鬼怒川に棲むその本流のヤマメの多くは太く、、、銀白色で可憐。
まさにサクラマスを思わせる姿。
スーパーヤマメ、鬼怒鱒、鬼ヤマメなど呼ばれることも。
もはや、鬼怒川の固有種です。

鬼怒川にサクラマスはいんのけ?

そりゃいっぺや~。
これは間違いないでしょう。
過去には60㎝を越えるような釣果も(YAMさんのブログ)。まさにサクラマスでしょっていう魚。サクラマスで疑う余地なしでしょう。
現在の鬼怒川は利根川の支流であり、利根川には利根鱒という名のサクラマス(那珂川と同様に短期降海型サクラマスと長期降海型サクラマスの両方がいるはずですが、この辺の妄想解析は改めてしたいと思います)が遡上してくるわけで、同じ利根川支流の渡良瀬川では海を短期間経験した短期降海型サクラマスの生息が確認されています。秋になればサケも遡上してきます。
つまり、鬼怒川にもサクラマスは遡上してくるわけです。

回遊履歴を調べると…

全長40㎝台までの鬼怒鱒が海を経験しているかを調べたところ…
残念ながら調べた40個体の中には海を経験した…
まさにサクラマスは……
いませんでした↓↓

那珂川に比べれば、栃木県内の鬼怒川はもはや上流。海からもちょっと遠い。
いるにはいるけど、圧倒的にヤマメや戻りヤマメ戻りヤマメの生態はこちら)が多いのでしょう。
それだけ豊かな生息空間と餌が鬼怒川にはそろっていると言えるのではないでしょうか。

食いしん坊の鱒にはこでらんねぇ川

ここで鬼怒川本流の河川環境の特徴をイメージで記してみます。
鬼怒川は石が那珂川に比べて比較的大きくゴロゴロしており、浮石が多い。河畔林はあるが河川敷が広い分、水面を覆うカバーとしては少なめで、水中に注ぐ太陽の光は非常に多い。つまり、川底の表面積は広く、藻類が適度に生えるため、鱒の好む水生昆虫なども多い。また、地上にみえる川以外に地下を流れる水が多い。そのため、水温も冷たい。ひゃっこいんです。
ちなみに、那珂川は川幅は狭く、基本は岩盤、狭く深いU字溝といった感じでしょうか。岩盤の上に石がのっかっているイメージです。石は小さく、密に敷きつまっており、水際に木々のカバーがあるため、日照も当たる場所と、そうでない場所が明確。そのため、川底の表面積は小さく、虫の生息空間は多くない。伏流水はあるけど鬼怒川ほどではない。
こんな感じでしょうか。

とにかく、
鬼怒川は餌が豊富!!

一方で鬼怒川は魚の隠れ場所は少ないイメージですが、連続する瀬と淵が作り出す生息空間は広く、水面に適度な波立ちがある瀬やトロが比較的多く連続することから、カバーとしての役割を担っているように思います。

このあたりが、鬼怒川の特徴であり、本流のいつきの大ヤマメや河川内を移動する戻りヤマメが限られた河川環境の中で数多く暮らせる理由の一つなのだと思います。

鬼怒川が生み出す若き八頭身

小顔。
小顔は急成長の証。
魚の世界では。
…確かにそうなのでしょう。
がしかし、鬼怒鱒は果たして小顔なのでしょうか。

そうでもなさそうです。
…なぜかというと。

鬼怒鱒(本流ヤマメや戻りヤマメ)の頭の大きさ(口先から鰓蓋後端の長さ)の全長比を那珂川のものと比較したところ、差は見られなかったためです。
どうやら、小顔なわけではないようです。
でも、鬼怒鱒は小顔に見えますよね。

理由は、体高の高さにあるようです。
体高の高さはまさに、成長の良さを表します。

鬼怒鱒の急成長は体高を高め、そして小顔を演出するのです。

そして、当然ながら鬼怒鱒は若い。
急成長するので若くて大きいのです。
那珂川本流のヤマメでは、全長30㎝台で3~4歳と長生きのものもいましたが(20㎝台でも3歳がいる)……

鬼怒鱒30㎝台は1~2歳

とびきり若かったんです。

全長40㎝台でも2歳という鬼怒鱒も

驚きです。

さぁ~果たしてどんな成長をするのか…

鬼怒鱒の成長
Tsunagawa et al., 2019 (Tochigi Pref. Exp. Sta, 2019. p46-48. Fig5)

これは全長30㎝台の鬼怒鱒の成長を個体ごとに調べたものです。
鬼怒鱒の頭の中にある耳石の日周輪(成長とともに1日1本の成長輪ができる)を採捕日(耳石最縁辺)から遡り、12月1日(孵化から満1~2年)と3月1日(解禁)時点における耳石の大きさから全長を推定しました。

これをみると………とりわけ解禁以降……

鬼怒鱒は1日1mmずつ成長する!!

鬼怒鱒の成長率は平均すると0.80 mm/日(0.72~0.90 mm/日)でした。
これは冬に川を降り、数ヶ月間を海で過ごして春に河川へ遡上する那珂川の短期降海型サクラマス(調べた鬼怒鱒と同じ30㎝台)の成長率(平均0.87 mm/日、範囲0.58~1.14 mm/日)に匹敵することがわかったんです。

恐るべし、鬼怒鱒。

これはつまり…
鬼怒川の生息環境というのは海に匹敵するほど豊かである…
三度目のくだりで、ややしつこいですが、そういうことを意味しているのではないでしょうか。

鬼怒川本流に十分な餌環境があるのであれば、当然ですが、那珂川よりも海までの距離が長い鬼怒川では、わざわざ那珂川の短期降海型サクラマスのように海へいくことをしないでしょう。いても少なくなるのでしょう。

鬼怒川にも冬場にシラメはおり、川を降るようです。これは那珂川と同じです。図の12月の推定全長は20㎝ほどで、実際に12月に鬼怒川の雑魚釣りで混獲されるシラメとサイズがマッチしています。
豊富な餌と生息空間、遠い海、平坦な下流域……様々な条件、状況が鬼怒川シラメを川に留まらせるのです。
そして春、水温の上昇とともに下流域から急成長を遂げて遡上してくるのです。

八頭身の大型ヤマメである鬼怒鱒

僕にはまさに「戻りヤマメそのもの」のように思えるのです。

もちろん、すべてがシラメ由来の戻りヤマメではないでしょう。
当然、シラメの降った鬼怒川本流にも留まることを選んだヤマメの幼魚たちが棲み、そこで急成長を遂げ、そして鬼怒鱒と化すのです。

なんとも魅力的な鬼怒川。
そして鬼怒鱒。

なかなか書ききれないですが、
他にも鬼怒鱒の身の色外見など那珂川の鱒とは異なる特徴があります。詳細は
耳石微量元素分析による鬼怒川ヤマメの回遊履歴
をご覧ください。

また、サクラマス(降海型)とヤマメ(陸封型)の形態的特徴については、
【魚類妄想生態学】那珂川に生息する戻りヤマメについて
那珂川の釣獲魚にどれくらいの数のサクラマスが含まれていたか?
をご覧ください。

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