AYU

アユ遡上は本当に早期化しているのか?

遡上と言えばアユ。
あっという間にそんな時期がやってきた。

近年の遡上状況について以下、栃木県水産試験場から公開されたデータ(詳細は図をクリック)をみていただきたい。

それによれば
●「遡上は早期化している」
●「遡上は長期化している」
ということ。

遡上の早期化について

遡上の早期化については、そのような印象を僕自身も確かに持っている。
現に2040年の遡上予想と題して近年の遡上時期の早期化を印象づけるような将来予想を示している。
その一方で本当に早期化(どんどん早まる)しているんだろうか?というもやもやが頭の中をず~っと渦巻いてもいた。

この図をみれば確かに右肩上がりに感じる。
温暖化傾向は近年の気温や海水温をみれば納得なのだが、それに呼応するように遡上が急激に右肩上がりに早期化するシナリオは少々出来過ぎじゃなかろうかとも思ったりする。
観測史上最高気温なのがここ数年の傾向ではあるが、それでも1990年以降からすでに気温上昇の傾向はあって、当然冬も温かくはなってきている。海水温も同様じゃないのか?(下図。詳しくは1000万回遡上した鮎へ)。

ここで注目したいのが2017年以降(図の点線)。それ以前とは断層の切れ目のように一段上がっているように見える。

ここで分解してみる。2017年以降を外してみると、各月とも海水温はほぼほぼ横ばい、むしろやや右下がり傾向。

今度は12~3月の海水温を年ごとにまとめたもの(下図)。2017年を起点に二つに分断してみた。

やはり感じるのは2017年あたりを境に一段落暖かくなったんだなということ。
ばらつきも少なくなり高止まり。水温が高値安定してきているようすがわかる。
安易に平均するのもあれだけど2017年以降の平均は13℃、2017年より前は平均11℃。その差は2℃にも及ぶ。

ここで再度注目したいのは遡上初確認日の傾向。

ちなみに那珂西での確認日は例年2月末ごろにあると考える(2020、2021年は既に多くのアユがおり確認が遅れた).

2017年を起点にしてみてみると、過去の初遡上日のばらつきに比べて、近年のばらつきが小さくなっているということ。
これはこれまで示してきた冬季の海水温の傾向に確かにマッチする。

ここで遡上初確認日と冬季の海水温の関係を見てみたい(下図)。

「冬季の海水温が高いほど遡上初確認日が早くなる」という傾向があることがよくわかる。
この傾向は茨城県が実施する千代橋での観測でも、栃木県の観測も同様の傾向だ。
海が温かいと遡上は早まるということだ。
2020年以降の那珂西(千代橋より6km下流)での遡上観測日のデータも入れてみたが、今後の状況次第では海水温との相関が見えてきそうではある。

つまりは近年における遡上初確認日の早期化は冬季海水温の上昇とよく一致しているということ。
ただし注意しなければいけないのは、ここ最近は「年々遡上が早まっていっている」という意味を表しているかはわからないということ。
さらに言えば、最初の図にあった「右肩上がり」という意味での早期化が本当かは現時点ではわからない、ということ。
近年は冬季海水温の高値安定化に即して遡上開始が早くからある。という意味での「早期化」の方が正しい、と僕は考える。

ただここで一点だけ早期化の可能性として触れておきたいのは、近年における調査精度の向上もあったり、当然ながら、近年におけるいつかの早期遡上発見が、調査そのものの時期を押し上げている可能性もあるということ。より踏み込んで言えば、ばらつきの少ない直近数年とばらつきの大きいそれ以前とでの比較には少々無理があるのかもしれない。
かつても3月上旬に遡上はあった、全体的にもっと早めに遡上があった…など、今では知る由がないがそう考えるとしっくりくるところもあるのは確か。むしろ僕も2019年以降の那珂川を独自に見てきて、「こんなに早くから遡上があるものなんだ」ということに気づいた訳だし、それまでの遡上調査の仕組みや遡上傾向を研究員の立場で経験していたからでもある。
もっと言えば、当時よりも数多く川に足を運へるようになり日常的に鮎たちをみることが可能となってから、今まで知っていた遡上動向とは想像以上にギャップがあった、つまりは以前からもっと早くにアユは来ていたんじゃないか、という問いが付きまとっていたという具合だ。
それを踏まえても冬季海水温の傾向と遡上観測日の傾向の一致は極々自然だし、おそらくリアルなんだと思う。

だとすると、近年の早期遡上の傾向は周期的なものなのか、一過性のものなのか、ゆっくりと早期化が進行していくものなのか、それとも今後加速していくものなのか、そこを判断することも難しい。
今の精度で調査を継続していくほかはない。

遡上の長期化について

こちらの遡上群数の図(栃木県水産試験場公表データ:詳細は図をクリック)。
確かに遡上期間が近年長期化しているように見える。
遡上群数が多いがために2023と2025の長期化が著しいように見えてしまいがちだが、着目すべきは推移の傾向である。
2023、2025と平年値とでは、おおむね平行で似たような推移をしている。
その差はむしろ、遡上が増えだした時期が3月下旬か4月中旬かというところである。
5月下旬以降に遡上が停滞した2024年を比較対象としている点が、長期化しているようにより一層みせてしまっていないだろうか。
つまり、長期化傾向は以前から観測されていたのではないだろうか、という疑問がどうしても残ってしまう。
僕自身も夏遡上アユ(【魚類妄想生態学】夏遡上鮎のライフヒストリー)の存在についてこの目で確認したのは独自に鮎を追い始めた2019年のことだ。

遡上早期化と長期化についてここまで記してきたが、以前に書いた遡上長期予想について触れておきたい。

これは「2040年の遡上予想」に掲載した図。「早期化が加速していく」というような印象を与えてしまうわけだが、単純に線引きすべきでなかったなと今は感じている。
理由は「遡上の早期化について」の段落で示した通り、「年々遡上が早まっていっている」「右肩上がり」という意味での早期化が起こっているかは現時点ではわからない、ということによる。

やはり示し方はより慎重でなければいけないのではないか、そう感じたことが今回この記事を書いた理由のひとつ。
とりわけ公的機関のデータとなれば、それは「考え」というよりは「正しい情報」なわけだ。
今回、その情報に基づいて検討されるのは「那珂川のアユ漁期の見直し」2026年アユ情報21号)だ。

●「遡上は早期化している」
●「遡上は長期化している」

これらの結論が行き着く先として考えられる最も残念な解釈は以下のとおり。

早期化 → 「解禁前倒し」(釣れるアユの出来上がりが早くなるだろうから)
長期化 → 「禁漁の後ろ倒し」(温暖化で産卵遅れ+まだまだ若い鮎が晩期までいるから)

つまりは漁期が前にも後ろにも延びるということ。

あくまでも僕のお得意の妄想生態かもしれないが、最悪のシナリオとしてこのようなことを想像しておくことは悪いことではない。
アユについての解釈は被害妄想でもいい。マウントは僕ら側ではなく、自然側になくちゃいけない。
それだけデータから言うことを慎重に選ばなければいけないと思う。
それはデータがもつ事実をどう見せるかということも含めて。

アユの未来が大きく左右される。

もう一度、最初の図を見てほしい。

栃木県水産試験場Facebook(2/10より)

近年の漁獲量は過去に比べてどうなのだろうか。

著しく減少している。

「釣れない、捕れない、楽しめない」の3T状態。

3T状態なのに漁期は今まで通りではまいっちゃうから、温暖化に合わせて漁期拡大しよう!!
なんて声が聞こえてきそうだが、それを叶えることが本当に那珂川のアユの未来に良いのだろうか。
近年では投網で漁場拡大の動きもある。
アユの生息場所が上流に偏ってきている昨今、上流域の漁場拡大がアユに及ぼすダメージは少ないくないだろう。

この漁獲量の著しい減少時代において推し進めるべきはむしろ、遡上をしっかり見守ること、産卵期の漁獲規制ではないだろうか。
こういった方策を企てるために貴重なデータや遡上アユの命を活かさなきゃいけないなと思う。

断片的ではあるが、僕がこれまで個人的に取り組んできた耳石解析の結果は下記のとおり。

【魚類妄想生態学】那珂川小鮎ライフヒストリー

【魚類妄想生態学】夏遡上鮎のライフヒストリー

【魚類妄想生態学】夏遡上鮎のライフヒストリー+

早期遡上だけでなく、夏までに遅く遡上してきた小さな鮎でも比較的早くに産卵に交じる個体、産卵期が1月末な遅生まれ小型個体、海洋生活期間が半年以上の小型遅遡上個体など、区分けするばいくらでも多様なパタンを有するアユの存在が分かってきた。
それは今まで全く着目してこなかっただけであって、ずっと1000万年前からつながれてきた。
柔軟に生活史を変化させるというか、置かれた環境に柔軟に適応するというか、そういった多様なアユの存在が今後の2000万回遡上や3000万回遡上に繋がっていく。
それらが一堂に会して次世代へのバトンをつなぐ産卵期こそが、最も大切にすべき時だとやはり感じる。

今後発表される耳石解析の結果を交えつつ、僕なりの考えをさらに成熟させていきたいと思う。

・・・

・・

話は変わるが、那珂川のアユの初遡上については、「立春魚上氷大潮に遡上が決まってある」というのが僕の考えだ。
これは長らく変わっていないと思っている。

2月中旬、カワウの群れが遡上魚を追う。

今年はその遡上の頭とやらをとらえたく、2月中旬からしっかりと調査をしてみた。
結果、だいぶ苦戦を強いられたが何とかアユの姿をとらえたのが本日2月24日となった。

さ~どこにいるでしょうか。

たくさんのオイカワの中にまぎれて泳ぐ。

奥の細長いのがアユ。

いや~大変だった…

やはり奥がアユ。

ね、アユでしょ(後ろはオイカワ)。

6時間以上観測して見つけられたアユは4個体のみ。

ほぼほぼオイカワ動画だがよかったらアユ遡上のようすをご覧ください。

沢山のオイカワの群れの中に現れる極僅かなアユ。
たいへん勉強になりました。

今年は海水温が近年の中ではやや低めに推移していたし、日照はあったものの雨が降らずで遡上が遅れるものと予想していた。
がしかし結果は2020年以降の調査では最も早い観測となった。これも予想どおりだった。

遡上するアユの姿が、これまでに観測してきた初遡上ものと大きく異なっている印象があった。
体色が透明に近く、シラウオっぽいということ。
それと遡上は単独または群れでも数匹といった具合。

近年で言えば最も初期の群れを観察できたのかもしれない。本当に本当に最初の遡上アユたち。
過去の遡上を考えれば、海水温や渇水、河川水温の影響からしてもっと早くから遡上はあったものと推察される。
つまりは今年は例年より遡上が遅いということ。
なんとなくつじつまが合ってきた。

若干妄想っぽくもあったがやはり「立春魚上氷大潮遡上説」は間違いではないかもしれない。
やはりしっかりと知りたい気持ちが強くなってきた。

何のためにとか、誰のためにとか、そういう理由があるわけではない。
ただただ知りたくてしょうがないという衝動だ。

それが僕のアユを追う原動力だ。

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