【猿腰泥蜂郎】
さるこしでいはちろう
名字が「さるこし」
名前が「でいはちろう」
わかりやすく書くと…
【猿腰 泥蜂郎】
DEIHACHIRO SARUKOSHI
もう、これまでのミズナラ流木グリップシリーズの
【SUISAI】や【AOMIDORI】【Denkyu60W】【MOSS】、そして【TOU】…
こんなクールな名前は忘れてください。
このランディングネットの名前は【猿腰 泥蜂郎】 です。
感の鋭い方は薄々気づいておられることと思いますが、名前の響きの具合から
「船越英一郎」さんを想像されていることでしょう。
そうです、そんな想いのランディングネットです。
もうほんと、渋いですよ。
裏面です。黒々としています。
大きさはフレーム内径縦28cm。
重さは122g。
いったい何なのか…まったく想像もつかないと思われます。
謎のグリップ。
流木ではございません。
ここで過去の記事へまいります。
もうすでに2年前。
「コフキサルノコシカケ」というサルノコシカケです。
キノコ博士に分類いただきました。
表面はカッチカチの黒。ごつごつです。
裏面は白です。
このコシカケから導き出したのが今回のランディングネットのグリップ。
猿腰の名字の所以です。
コフキサルノコシカケは欅の倒木にあったものです。
すでに欅の倒木は台風で流出していますが、ここにその欅を感じる一部が残っているわけです。
なんとも不気味なテクスチャー。
不気味ですが…なんて魅力的なのだろうか…。
欅と共にすごした時間が感じられるのは…僕だけでしょうか。
キノコなので菌なわけですが、そんな菌も何かの菌に侵されるのか…その痕跡がこの模様なのだと想像しています。
そしてこのあたりの丸く白い痕跡はきっと、虫により食われた虫食いの痕なのではないか…。
しかも白く綿のような素材でふさがっているところをみると、これはコシカケ自身が修復した痕。
そう捉えることもできます。
模様がより複雑化している様子から、修復には相当なエネルギーを要したのでしょう。
コシカケが語り掛けてきます。僕にはわかるのです。
その修復には、欅からの養分や虫から得た養分、それに大気中や雨、欅表面に棲む植物や虫から得た何かをエネルギーにかえて行われたと考えると、想像をこえる関係性が見えてくるわけです。
これはもはやコフキサルノコシカケという種の1つの形生物ではなく、欅をとりまく環境とそこに関わる生き物の形生物。
集合体です。
すべては想像の世界で、妄想深いですが、このテクスチャーを生み出すにはそれ相応の関りがきっとあるはず…。
ピントを合わせようとしても、どこにピントが合っているのかもわからなくなる…目の錯覚を起こすほどの模様の奥深さ。
きっと受動的、自発的な事柄が重なっているのでしょう。
いやもう、とらえきれない…。
みなさんはどのように思いますか?
どう考えますか?
ただただすごい…美しい…
しかし、それだけでいいのでしょうか。
自問させられます。
裏側ですが、穴があります。
ここはまさに虫の穴です。修復はありません。
時間軸がこのグリップから感じられます。
ここは欅の樹皮と接合していた部分です。
欅の樹皮の模様とコシカケの模様が似ているようにも思えます。
支えあっていたのでしょう。
噓のようというか、創り出したグラフィックデザインのようにも見える…。
しつこいほど見せたいと思います。
グリップの中間部分あたり。
ここにはチョウがいますね。
あそこは海坊主でしょうか…。
みなさんにはどううつりますか?
もうお腹いっぱいだとは思いますので、ここからはちゃんと部材などを紹介していきたいと思います。
猿腰泥蜂郎のグリップはこれまでしつこく紹介してきたコフキサルノコシカケですが、フレームは真竹になります。
粗目にそしてまばらに、竹表面の様々な層をランダムに露出させるように思うがまま削りをいれました。
表面そのままの部分も残り、味わい深いです。
内側は焼きをいれて、はい、マムシ感です。
そう、微かなマムシ感です。
いいんですよね~渋いんです。
この竹のカーブ感。
これも真竹のしなやかさを感じられます。
そしてこんなのも…
マムシ感に重みを加える目的で…欅の樹皮をそえました。
マムシ感に重みでましたよね。
とにかくすごいんです。欅の樹皮というのは相当のレイヤーで形成されているようで、削ると色々な表情を見せてくれます。
気が付けば欅が大好きです。
今度、欅の様々な材料でランディングネット作ってみようかな…そんなことも思っているくらいのめりこまされています。
…グリップはもちろん欅で、樹皮をちりばめて…凸レーションしたり、もちろんコフキサルノコシカケも注入しますし、染色にも欅を用いてはどうだろうか…名前は…
【欅逆48】
ここ那珂川流域のさらに逆川流域にたつ欅…「欅逆」
48は大きさか…それとも…。
妄想はつきない…。
裏側は比較的シンプル…
細めにくびれたグリップデザイン…グリップエンドはまるく膨らみます。
表からですがエンドは蜂のお尻(腹)を連想させます。
僕だけですか?
Riverlineのロゴも入れました。
焼き入れも可能なサルノコシカケグリップ。
グリップとフレームの接合部には鹿角を。お決まりです。
もちろん鹿角は、泥蜂の泥巣を焼成し、砕いて粉状にしたものを樹脂で練り上げた「泥蜂液」で包埋しています。
コフキサルノコシカケそのままの部分。
成長を示すかのような層になっています。
泥蜂液との相性も抜群です。なじんでます。
グリップエンドの窪みには淡水二枚貝の真珠層を埋め込みました。
もちろん泥蜂液で。
自然が生み出す造形にこちらがあわせるように。
泥蜂の記事付け加えておきます。
テクスチャーが際立つ角度と…
表面構造がみれる角度と…
見方は大きく二通り。
どちらからの見え方も渋くなくてはいけません。
複雑です。とにかく複雑です。
線の複雑さは模様の複雑さを反映していて、新たに何かが起きた部位でもあります。
さきほどもあった時間軸を感じる部分です。
サルノコシカケですから、そりゃキノコですから、そりゃ樹脂を吸います吸います…
ランディングネットですから、水がしみこまないように耐水処理が欠かせません。
随分と吸いましたね。
おかげさまで、柔らかなキノコは硬く硬くなりました。
ネットはクレモナ手編みです。4号糸で目幅15mm。網の深さは30cmほどです。
今回も市販の化学染料は一切使用せず、柿渋泥鉄染色のみ。
白糸がこのような灰色になる工程は見ていて、体験していて、とても不思議に思うところです。
そしてワクワクするところです。
時間の経過とともに、どのように変化するのかもたのしみの一つ。
もちろんランディングネット本体も自然物で構成されているので、こちらもどうかわるのか。
コフキサルノコシカケにしても、真竹にしても、鹿角にしても、泥蜂にしても、二枚貝にしても、すべてそれぞれに「LIFE HISTORY」があって、今にいたる「STORY」があるはず。
それらの素材を寄せ集めて、いじる…
いや、この辺の言葉でいう「わすらする」のが適当かも知れませんが、「わすらする」ことで何も知らない僕らは妄想のストーリーを作り出すことができます。
そして遊びではなく、本気で触れてみてわかるものがあるはずで、それは妄想の先のむしろ本当のストーリーに通じるかもしれない。そんなことを思ったりします。
作る工程で、切ったり削ったり、混ぜたり、焼いたり…そして塗ったり。
とりわけ焼くことは、焼成。
僕の中では泥蜂の巣を焼く行為は泥に含まれる泥や砂、水分、ドロバチの体液、他の生きものの一部などを大気に変える行為。なんとなく弔いに近い感覚なのかもしれません。
何だか思想感強めになってきましたが、色々な生きものをつなぎ合わせること自体もその弔い感覚なのかもしれません。大変おこがましい解釈です。
自分でもまだよく理解できてはいませんが、【泥蜂郎】を作っていて感じたことです。
泥蜂郎…
や~泥蜂郎…
混沌なんて言わせないよ泥蜂郎…。
泥蜂郎は、ここ那珂川を僕とはまた違った角度でとらえることができる誰かのもとへと旅だちました。
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